東京オリンピックを来年に控えて、世界各国からオリンピック観戦での来日が見込まれます。そこで懸念されるのが宿泊施設不足と宿泊代金の高騰。こうした懸念材料を解消する有効な手段として導入されるのが「ホテルシップ」。「ホテルシップ」は大型クルーズ船を停泊させて宿泊施設として活用するものです。
過去の五輪でも活用された「ホテルシップ」
ホテルシップ自体は国際的に珍しいわけではなく、リオ五輪で②隻、ソチ冬季五輪で4隻、ロンドン五輪で3隻、バンクーバー冬季五輪で3隻と過去のオリンピックでも導入された実績があります。また2018年11月にパプアニューギニアでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催され、その際首都ポートモレスビーの港でクルーズ船など3隻が、政府のチャーターで1週間ホテルシップとして活用されました。パプアニューギニアでは首脳級の国際会議を開いた経験がなく、格式とセキュリティの両面で水準を満たすホテルが足りなかったことから、大型クルーズ船が活用されました。
「4年に一度きり」といって過言ではないオリンピック。オリンピックに合わせてホテルを多数建設することが、「オリンピック後」を考えると賢明ではないのは当然かとといえます。海上に停泊するクルーズ船を活用した「ホテルシップ」はぜひ有効活用するべきでしょう。
日本におけるホテルシップ導入にあたっての問題
本格的な「ホテルシップ」導入にあたって法律面やハード面でも整備すべき点があります。「ホテルシップ」にあたっての問題について触れています。
旅館業法
本格的な「ホテルシップ」の実現に向けて問題となっていたのがまず「旅館業法」との兼ね合いです。現行の「旅館業法」では衛生上の観点からホテルとして運営する客室には窓の設置が必須でした。クルーズ船は窓のない客室が4割程度あり、こうした客室の活用が問題になっていました。しかし、厚生労働省は2018年5月に「当該イベント期間に限定して各自治体の判断により営業許可を与えて差し支えない」という通知が出されました。営業許可を与えることができる条件は以下の4つです。
・通常、貨客の運送に利用されている旅客室を有する船舶であること。
・全客室のうち、無窓の客室が占める割合は、概ね4割程度以下であること。
・窓を代替する設備(照明設備・換気設備)が無窓の客室に確保されていること。
・営業者は宿泊者に対し無窓の客室である旨を宿泊契約時に知らせること。
入管難民法に関する問題
クルーズ船の外国人乗組員の上陸許可は一港のみの場合、7日以内と入管難民法で定められていました。この点についても法務省令を改正して最大15日までの上陸を認めるとのことです。また15日以上の滞在が必要になる場合は必要に応じて再度、同じ許可を行うことを想定しているとのことです。
ホテルシップ受け入れの為の施設整備
クルーズ船社との間で排水処理をどのようにして受け入れるかということも今後調整が必要な問題となっています。クルーズ船は航行中に一定の基準を満たした処理水を海に棄てていますが、停泊中は排水ができない為、着岸中の処理水の受け入れの問題が出てきます。国交省ではホテルシップを受け入れるための施設整備について自治体や事業者向けのガイドラインを作成、クルーズ船とつなぐ上下水道や乗客を送迎する駐車場などで標準的な施設の目安を提示するとのことです。
オリンピック後のクルーズ船活用への期待
横浜港では「サン・プリンセス」、東京港では「MSCリリカ」の停泊が既に決定しています。クルーズ船は長期間の船旅を想定して建造されています。ホテルにも勝るとも劣らない宿泊・飲食機能を保有しています。またブランド品を集めたショッピングアーケードやシアター、プール、フィットネスジムといった娯楽施設を備えています。今までクルーズに乗ったことのない人にクルーズ船の良さを知っていただく機会にもなります。四方を海で囲まれた日本だからこそ、東京五輪をきっかけに地方での大規模なイベントなど今後のクルーズ船の活用につながることが期待されています。また今回、ホテルシップに宿泊することでクルーズ船の良さを感じてくれた人が船旅でのクルーズ船乗船参加も期待することができます。
2020年は東京湾に浮かぶクルーズ船見物でオリンピック気分を味わっていただけるかもしれませんね。